
商売には何より”お金”が大切
創業計画シリーズの第4回。前回は計算上の売上・経費・利益について話してきました。今回は、計算だけでない事業の命ともいえる”お金”についてお話していきたいと思います。
シリーズの別記事はリンク先をご覧ください。
事業を始めるとき、多くの方が最も気になるのは「お金」のことではないでしょうか。
実際、創業支援の現場でよくある相談も、
- 「いくら自己資金があれば始められますか?」
- 「融資っていくら借りられるのでしょう?」
- 「生活費も含めて足りるか不安です…」
といった資金面の悩みが大半を占めます。
この悩みは創業時にとどまらず、開業後の資金繰りへとつながっていきます。利益が出ていても手元にお金がない「黒字倒産」や、運転資金不足によって事業が立ち行かなくなるなど、資金の管理は事業の持続力に直結します。逆に、お金があれば事業拡大や新規雇用など、事業の次の展開に進みやすくなります。
税理士・金融機関・支援機関とのやりとりにもそのまま使える知識ばかりですので、ぜひ最後までご覧ください。
1.創業資金には「初期費用」と「運転資金」の2つがある
まず、「創業資金」と一口に言っても、実は大きく分けて2つの性質があります。
■ 初期費用(開業資金)
- 店舗の賃貸契約金(敷金・礼金・仲介料など)
- 内装・設備工事費(厨房・什器・空調など)
- 開業広告・ホームページ制作費
- 開業時の仕入れ(在庫や材料)
- 開業手続きにかかる諸費用(登記費用など)
一度きりの大きな出費が多いため、ネットでリサーチしたり実際に見積もりを取りながら「事前にいくら必要か」を正確に見積もることが大切です。
■ 運転資金
- 家賃や水道光熱費
- 材料費・仕入れ費用
- 人件費
- 通信費・販促費
- 創業者自身の生活費
事業をスタートしてから軌道に乗るまでの期間は、売上よりも支出が先行します。その間の資金繰りを支えるのが運転資金です。
2.どれくらいの資金を用意しておくべきか?
ここで、ある飲食店のモデルケースを紹介します。
【カフェ開業モデル(夫婦2人運営・15坪程度)】
費目 | 金額(目安) |
---|---|
店舗契約費用 | 80万円 |
内装・設備工事費 | 250万円 |
初回仕入・備品費 | 40万円 |
開業広告・チラシ等 | 30万円 |
6か月分の運転資金 | 180万円 |
合計(目安) | 580万円 |
このように、開業費+6か月分の運転資金を見込んで準備すると、想定外の出費や立ち上がりの遅れにも柔軟に対応できます。
3.自己資金はどの程度必要?
創業融資を受ける上でも、自己資金の額と「貯め方」が重要です。
■ 自己資金の目安
一般的には創業資金の30%程度の自己資金が望ましいとされますが、最低でも10%は用意しておくのが現実的です。
たとえば開業に600万円かかる場合、自己資金60万円は絶対に確保しておきたい水準であり、180万円あると安心して事業計画を進められると言えます。
日本政策金融公庫でも従来は開業資金の10%以上の自己資金を求める制度を撤廃し、自己資金が不足していても門前払いされることはなくなりました。とはいえ、自己資金の額によって融資審査の通りやすさや融資額が変わるので、自己資金があった方が有利であることは間違いないと思われます。
■ 銀行担当者の目線
「きちんとお金を管理できる人かどうか」は、融資審査の中で非常に重要な視点です。自己資金の有無は、計画性・信頼性・本気度を映す“鏡”でもあります。
4.資金繰り表を作ってみよう
創業準備の段階から、損益の推移とは別に、簡単でもいいので資金繰り表(キャッシュフロー表)をつけておくことを強くおすすめします。(専門的なキャッシュフロー計算書については別の機会でご説明します)
■ 月次資金繰り表の例
月 | 期首残高 | 入金(売上+借入) | 支出合計 | 期末残高 |
---|---|---|---|---|
4月 | 0円 | 2,000,000円 | 1,800,000円 | 200,000円 |
5月 | 200,000円 | 400,000円 | 350,000円 | 250,000円 |
6月 | 250,000円 | 500,000円 | 450,000円 | 300,000円 |
これを続けていくことで、
- 手元資金が不足しそうな月が可視化できる
- 計画的に販促や仕入を調整できる
- 金融機関に対する信頼性も向上する
という大きなメリットがあります。
クラウド会計ソフト(MoneyForwardなど)では、資金繰りの自動計算機能もあり、創業後も安心して運用できます。
5.創業時の資金トラブルとその対策
× よくあるトラブル
- 内装費用が予想を超えてしまった
- 想定より売上の立ち上がりが遅い
- 設備の故障や修理が発生
- 融資の入金が間に合わない
■ トラブル対策
- 見積書は3社以上取り、上限+20%のバッファを確保しながら融資交渉に臨む
- オープン時期を柔軟に設定し、広報活動を早めに始める
- 修繕・予備費として50万円程度の余力を持つ
- 融資スケジュールを逆算し、融資交渉スタート時期を前倒しに
資金計画は「余裕がある」状態でなければ意味がありません。
「最悪を想定して備える」のは創業時だけでなく事業が軌道に乗った後にも重要な視点だと思います。
6.資金面でも“ひとりで悩まない
創業期の資金の悩みは、正直に言えば尽きません。
- 本当にこの予算で大丈夫か?
- どの補助金が使えるのか?
- どの銀行に話をしたらいいか
- 生活費は何か月分持たせるべきか?
こうした不安は、一人で抱え込まず、専門家に相談することが何よりの解決策です。
やなぎ税理士事務所では、クラウド会計の導入とあわせて、創業資金計画の設計や融資書類のアドバイスを日々行っています。
おわりに
創業の成功は、「アイデア」や「やる気」も大切ですが、それだけでは叶いません。
同時に、着実な資金計画と資金繰りの管理を考えていかなければなりません。
- 「開業資金」と「運転資金」を分けて見積もる
- 自己資金は最低10%、できれば30%以上を目指す
- キャッシュの流れを“見える化”しておく
- 想定外に備えて余白を持つ
この基本をしっかり押さえておくことで、創業後の安心感が大きく変わります。
数字と向き合うことは、夢を現実にする第一歩です。
次回の第5回では、いよいよ創業計画書の書式をもとに、完成までの具体的な記入方法やチェックポイントを解説します。
金融機関への提出を想定した「伝わる計画書」づくりを一緒に進めましょう。
やなぎ税理士事務所では創業支援を積極サポート中です
やなぎ税理士事務所では、創業まもない事業者様、これから創業予定の方に対し、以下のような支援を行っています。
- 創業融資支援
- 事業計画の作成アドバイス
- 会計・税務の初期導入支援(クラウド会計含む)
- 開業後の資金繰りや補助金活用の相談
京都を拠点に、地域密着で親身に対応いたします。(リモート対応も可能です)
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