
“現実的な数字に落とし込む” 売上・経費・利益の計画づくり
創業計画シリーズの第3回。これまでで、創業の動機やビジョン、市場・顧客分析の大切さをお伝えしてきました。今回からは「数字の世界」に入ります。
シリーズの別記事はリンク先をご覧ください。
数字が苦手という方でも順番に考えればそれほど難しいものではありません。計算自体は小学校で習う四則演算(たし算、ひき算、かけ算、わり算)の中でできるものです。
そして、できあがった数字は、銀行融資や補助金申請時の審査資料としても非常に重要になります。
今回は、事業計画における「売上計画」と「経費計画」の立て方について、実例とポイントを押さえながらお話ししていきます。
1.売上計画は「数式」で見える化できる
売上の計算式は、非常にシンプルです。
売上=単価 × 客数 × 営業日数
しかし、この「単価・客数・営業日数」をいかに現実的に見積もるかがポイントです。
例|カフェの場合
要素 | 数字の根拠 |
---|---|
客単価 | 700円(ドリンク+軽食の平均) |
1日あたり客数 | 平日30人/土日50人 |
営業日数 | 月25日営業(週2回定休) |
→ 【月間売上計画(試算)】
(平日20日×30人+土日5日×50人)× 700円
=(600+250)人 × 700円=595人 × 700円=416,500円
このように、売上は「客単価」と「集客見込み」の掛け算で具体化していきます。
もちろん、製造業等のようにカフェと客単価も客数も全然違う業種もあるとは思いますが、基本の考え方は同じです。
ポイント:根拠を“言語化”する
金融機関や支援者は、「なぜその数字になったのか?」の根拠を知りたいと考えています。
- 客数は、同業店舗の様子や周辺の人通りから想定
- 単価は、メニュー構成と価格から平均値を出す
- 営業日数は、自分の働き方・体力・家族の都合から決定
これらを計画書の備考欄や口頭説明で説明できるようにしておくと信頼度が増します。
業種や自分のスタイルによって色々な説明ができると思いますが、商売の根幹は売上です。売上のロジックは何においても重要なので、しっかり考えましょう。
2.「売上が伸びる未来」も数字にしてみよう
創業当初からすべてうまくいくとは限りません。
売上は徐々に増えていくもの、と仮定することが現実的です。
売上の成長イメージ(例)
月 | 月商(円) | コメント |
---|---|---|
1か月目 | 300,000 | プレオープン、認知拡大中 |
3か月目 | 450,000 | SNS経由のリピーター増加 |
6か月目 | 600,000 | モーニングセット導入で単価UP |
12か月目 | 750,000 | 地元イベントとの連携 |
このように、徐々に売上が上がるストーリーを組み立てておくことで、「回収の見通し」が具体的になります。
3.経費計画は「固定費」と「変動費」に分けよう
経費を考えるとき、最初にやるべきは次の分類です:
- 固定費:毎月必ず発生する支出(例:家賃・人件費・リース代)
- 変動費:売上や仕入れに応じて変動する支出(例:原材料費・包装資材)
例|テイクアウト型カフェの経費(試算)
区分 | 項目 | 月額(円) | 備考 |
---|---|---|---|
固定費 | 家賃 | 100,000 | 7坪・住宅地エリア |
固定費 | 通信・電気・水道 | 20,000 | 季節変動あり |
固定費 | 会計ソフト | 3,000 | クラウド型 |
固定費 | 人件費(パート) | 60,000 | 週3日×5h |
変動費 | 食材・包装費 | 売上の30% | 仕入額×客数で変動 |
変動費 | 広告費 | 10,000 | チラシ・SNS広告 |
→ 毎月の「支出合計」を計算すると、利益の見通しが見えてきます。後述しますが、開業時にしか発生しない一回きりの初期費用や火災保険など、忘れがちな経費をいかに現実的に見積もれるかも肝要です。
4.利益計画で「赤字期間」も見える化する
創業初年度は「赤字」でも問題ありません。ただし、それが計画的なものかどうかが重要です。
初年度収支のシミュレーション(例)
月 | 売上 | 経費 | 利益 |
---|---|---|---|
1月目 | 300,000 | 320,000 | ▲20,000 |
2月目 | 350,000 | 310,000 | 40,000 |
3月目 | 450,000 | 350,000 | 100,000 |
4月目 | 450,000 | 360,000 | 90,000 |
… | … | … | … |
12月目 | 750,000 | 500,000 | 250,000 |
→ 黒字化が4〜6カ月後というストーリーも納得感があります。
→ 赤字期間中の資金繰り(生活費+事業資金)も計画しておくことが大切です。
5.経費の数字を考える際のコツ
ここでは、実務的なコツを3つご紹介します。
① 現地確認&ネット調査を併用
家賃や内装費、POSレジなど、業者や物件によって大きく異なります。
現地の不動産業者や、ECサイト(Amazonや楽天・モノタロウなど)を参考に、実際の価格に近い数値を拾っていきましょう。
② 忘れがちな費用をリストアップ
- 開業届提出時の印紙代・法定備品(消火器・衛生管理ポスター)
- 開業月のチラシ印刷・折込費用
- クレジットカード決済端末の初期設定費・手数料
- 火災保険や業界団体会費など
こういった「一度きりだが必須」「毎月発生しないので忘れがち」の支出も忘れずに!
③ 数値に幅を持たせておく(保守的に)
仕入や光熱費は予想外に上下するものです。
予算に余裕を持たせ、「最大でもここまでなら耐えられる」という“最悪パターン”も想定しておくと安心です。
6.創業融資を見据えて収支計画を作ろう
銀行や信用金庫などで創業融資を受ける際、最も重視されるのがこの「売上・経費・利益」の3点です。
審査担当者が見るポイントは次のような点です:
- 数字に根拠があるか?(机上の空論ではないか)
- 自己資金と借入金のバランスは取れているか?
- 売上で経費をまかなえる計画になっているか?
- 回収までの期間が現実的か?
つまり、数字の整合性が問われるのです。
数字は「想いを支える道具」
売上や経費の数字は、単なる“計算”ではなく、「創業者の想い」と「現実」とをつなぐ架け橋です。
- どんなお客様にどんな価値を届けたいか
- どれくらいの人が来てくれて、いくら使ってくれるか
- それによって、どんな未来を描けるのか
数字はそれらを表現する言語です。
根拠を持って、誠実に、そして現実的に数字と向き合うことで、あなたの創業はぐっと前に進みます。
次回は「資金繰りと創業資金の考え方」について解説します。
開業準備の「お金の流れ」や「自己資金の目安」「融資との付き合い方」など、実務に役立つ情報をお届けします。
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