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ゼロから始める創業計画|第2回『ビジョン・市場分析の大切さ』

経営

2025.07.11

“数字の前に想いを整える” ビジョンと市場分析の進め方

前回は、「事業計画書とはなにか?なぜ必要なのか?」についてお伝えしました。
今回は、より具体的な内容に入っていきたいと思います。

一足飛びに売上や利益といった“数字”から考え始める方も多いですが、実はその前にとても大切なステップがあります。

それが、

  • 「自分は何をしたくてこの事業を始めるのか?」(=ビジョン)
  • 「どんな人に、どんな価値を届けるのか?」(=市場・顧客分析)

この2つをしっかり考えることが、数字にも、融資にも、開業後の運営にもつながっていきます。

正直な話、この2つが曖昧なまま事業をスタートさせ、売上が思う通りに立たないからといって事業コンセプトを右往左往させた結果廃業してしまった、という事例を何件も見てきました。

「想い」を言葉にする――創業ビジョンのつくり方

創業動機は、銀行も必ず見る

銀行や保証協会の融資申込書には、必ず「創業の動機」「創業に至った経緯」の欄があります。
つまり、金融機関も「この人はなぜこの事業をやるのか?」をとても重視しているということです。

では、どう書けばいいのか。次の実例をご覧ください。

事例1|カフェを開業したい女性(30代・会社員)

「大学時代に京都のカフェでアルバイトをしていたことがきっかけで、いつか自分のカフェを持ちたいと考えていました。社会人になってもその想いは変わらず、休日には喫茶店めぐりをして研究してきました。今回は、長年の夢を実現するために開業を決意しました。」

こうした文章があるだけで、融資担当者には「計画性」「継続的な熱意」「業界への親和性」が伝わります。

事例2|訪問型理美容サービスを始めたい元理容師の男性

「高齢の父の介護経験から、外出困難な方でも気軽に髪を整えられる訪問理美容サービスのニーズを感じました。長年理容師として働いてきた経験を活かし、地域に根差した移動型サービスを提供したいと考えています。」

ここでは「社会的なニーズ」と「自分の経験」がマッチしており、事業の必然性が強く伝わります。

誰に、何を、どう届けるかを明確にする

創業計画書の本質は「価値提供の設計図」です。

真っ先に考えなければいけないのは、“誰に”価値を提供するのか=顧客像の明確化です。

ターゲットを明確にしよう(ペルソナ設定)

例として、京都市伏見区でカフェを開業したい場合を考えてみましょう。

要素設定例
年齢30代後半女性
職業近くの企業に勤めるOL
ライフスタイル平日は忙しいが、土曜の午前中に自分時間を大切にしている
ニーズ静かで落ち着いた空間で読書をしたい、美味しい軽食があるとうれしい
課題駅前のチェーンは騒がしくて落ち着かない

このように、架空の顧客像を細かく設定していくと、「どんな商品やサービスを用意すべきか」が見えてきます。

市場調査=競合を知る、ニーズを探る

小さな一歩から始める現地調査

調査といっても、難しい統計やアンケートを取る必要はありません。

  1. 開業予定地周辺の競合店舗を10件ピックアップ
  2. Googleレビュー・食べログ・Instagramで情報収集
  3. 実際に訪問して雰囲気・価格帯・客層を確認

★ 調査例:伏見区のカフェを5軒まわった結果

店舗名特徴客層価格帯
A店自家焙煎で本格派40〜60代男性多め¥500〜¥700
B店雰囲気重視、インスタ映え20代カップル¥700〜¥1,000
C店モーニングが人気主婦層・高齢者¥400〜¥600
D店テイクアウト中心会社員¥300〜¥500
E店ワークスペース併設フリーランス風の若者¥500〜¥800

→ この結果から、自分が狙うターゲット層が「どの店にもはっきり対応されていない」と気づくことがあります。
→ 逆に、「似た層が集まっていて競合が強い」とわかれば、別の特徴を出す必要も。

差別化の軸を見つけよう(ポジショニング)

差別化を考えるときに役立つのが、以下のようなマトリクスです:

単価が安い単価が高い
入りやすい雰囲気チェーン系カフェ地域密着型カフェ(例:子育て応援)
特別感・非日常ポップアップ型店舗高級喫茶・サードウェーブ系

→ 自分の店はどこに当てはまるか?
→ 競合がいないマスに位置取れるか?

(クリニック開業なんかの場合は診療圏調査を外部委託してるケースが多いですが…基本はやっぱり自分の目・耳・足を使って情報収集です)

SWOT分析で「自分の武器」を整理しよう

SWOT分析は、ビジネスの「強み・弱み・機会・脅威」を整理するフレームワークです。

(例)カフェ開業のためのSWOT分析

分類内容(カフェ経営の視点で)
Strength(強み)– バリスタ資格や飲食店での勤務経験がある
– 店舗の雰囲気づくりに自信(インテリアやSNS活用)
– 京都・伏見の立地を活かした観光客向けの導線
– 地元野菜や有機食材を使った安心メニュー
Weakness(弱み)– 開業資金が限られており、席数や設備に制約
– 知名度がまだないため集客力が未知数
– 飲食店経営の実務(仕入・衛生・人材管理など)は未経験
– 定休日・営業時間が限られてしまう(ワンオペ体制)
Opportunity(機会)– 健康志向やサステナブル志向の高まり
– リモートワーク需要によるカフェ利用の多様化
– SNSで話題になることで遠方からの集客も可能
– 地域のイベントやコラボを通じた広報展開
Threat(脅威)– 近隣に競合のカフェチェーンやおしゃれカフェが多数存在
– 原材料費や電気代などの高騰リスク
– 人手不足による営業時間制限やサービス低下の可能性
– 天候や観光動向に売上が左右されやすい

SWOT分析から見える戦略のヒント

強み×機会
 → SNSで空間や食材のこだわりを発信し、他店との差別化を図る
 → 「地元の素材×観光客ニーズ」を結びつけた季節限定メニューの展開

弱み×脅威
 → 運営面の脆弱性を補うためにクラウド会計やモバイルPOSを導入
 → 営業時間が限られるなら「予約制」や「テイクアウト特化」で効率を図る

このようにSWOT分析は、自分の事業を「客観的に見つめなおす」ツールとして非常に有効です。
事業計画書にもこの要素をさりげなく盛り込むことで、融資審査の説得力もぐっと高まります。

数字に入る前に“設計思想”を固めよう

数字は、想いのあとに生まれます。

売上=商品×客数
客数=誰が来るか×何回来るか
単価=提供する価値

このように、ビジョン・市場分析ができていないと、売上計画の根拠もあやふやになってしまいます。

土台があるから数字が意味を持つ

ビジョンは事業の“骨格”であり、市場分析は“設計図”です。
いきなり収支計算に飛び込むのではなく、「なぜ自分はこれをやるのか?誰のためにやるのか?」を言葉にし、数字とつなげていくことが大切です。

次回は、いよいよ「売上計画の立て方」に進みます。
この第2回を通じて、「数字の背景にある意味」をじっくり考えていただけたら嬉しいです。

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