
はじめに
2025年10月から最低賃金が全国平均1,121円、京都府でも1,122円に引き上げられる見込みです。京都では前年度比+64円という過去最大の上げ幅で、働く人にとっては朗報ですが、経営者にとっては正直「きつい!」現実です。
売上が急に増えるわけでもなく、人件費だけが確実に上がる。薄利で回している中小企業ほど、その負担はじわじわと経営を圧迫します。実際に中小企業の人件費倒れのニュースも目にすることが増えてきました。
「どうやって払うか」「従業員の数やシフトを調整すべきか」
経営者とお話をしていても、人件費の悩みの話ばかり聞きます。
ただ、最低賃金の引き上げは国の方針であり、避けられません。
1. 最低賃金引き上げが経営を直撃する
1.1 京都府の例
従業員5人を最低賃金で各100時間/月雇用している飲食店の場合:
- 改定前:52万9,000円/月
- 改定後:56万1,000円/月
→ 月3万2,000円、年間38.4万円のコスト増
フルタイム社員でも、年間10万円以上の増額になることがあります。
1.2 「人件費=固定費」の重さ
中小企業にとって人件費は変動しにくい固定費。不当に給料を下げることはできないので、これが増えると利益率が一気に下がります。
「人件費を増やす=赤字に近づく」現実を突きつけられる経営者も少なくありません。
2. 経営的にはつらい、されど対応は必須
最低賃金以下で雇用を続ければ法律違反になり、罰則リスクまで抱えることになります。
つまり、対応せざるを得ないのが現実です。
昨今の人件費高騰に対応するためには、優遇税制や補助金などを最大活用するのが一つの手です。
その中の、現時点の優遇税制に”賃上げ促進税制”です。
3. 賃上げ促進税制で“取り戻す”
3.1 制度の趣旨
賃上げ促進税制は、給与を一定割合以上引き上げた企業に対して法人税から税額控除する制度です。
「どうせ上がる人件費なら、せめて税金で取り戻す」という考えで検討すべきでしょう。
3.2 要件(中小企業向け)
- 給与等支給額を前年度比1.5%以上増加
- 2.5%以上増加させればさらに優遇
3.3 控除率
- 1.5%以上増加:15%控除
- 2.5%以上増加:30%控除
- 教育訓練費を一定以上増加・支出 :+10%控除
- ただし、法人税本税の20%が上限(上限にかかった場合は翌期繰越制度あり)
3.4 具体例
給与総額が1億円→1億1000万円(10%増)の場合:
- 増加額1000万円 × 30% = 300万円を控除
- 教育訓練費を5%以上増やして、かつ、給与総額の0.05%以上支出していれば、控除は×40%=400万円に拡大
4. 教育訓練費を戦略的に活用する
賃上げ促進税制は、上記の要件の通り、教育訓練費による控除上乗せ要件を満たすことで税額控除の金額が増加します。
つまり、戦略的に教育訓練費を活用することで、従業員の教育推進とともに、場合によっては支出額以上の税額控除を受けられることがあります。
(※役員や親族に対する教育訓練費は除外されます)
活用例
- クラウド会計やITツールの研修で事務効率化
- 営業研修で価格転嫁や単価交渉の力をつける
- 管理職研修で離職率を下げ、人材採用コストを削減
教育投資は一見コストですが、節税(控除率アップ)と生産性向上の両面でリターンが期待できます。
5. 決算賞与を戦略的に活用する
固定的なベースアップに比べて、決算賞与は柔軟性の高い選択肢です。
- 業績に応じて支給額を調整できる
- 損金算入で法人税を減らせる
- 給与総額を押し上げる手段として税制要件を満たせる
6. 経営者が取るべき実務対応
ただし、決算日を迎える前の支出を心掛けるか、決算日後の支給であれば「決算日から1か月以内に支給」「金額を事前確定」など条件を守らなければなりません。
この決算賞与も、教育訓練費と同じく、場合によっては賞与額以上の税額控除を受けられる場合があります。(決算賞与によって増加率を1.5%以上⇒2.5%以上を目指す場合)
- 影響の見える化
最低賃金改定後の人件費を具体的に試算する。 - 制度活用の検討
賃上げ促進税制の適用要件を確認。教育訓練費をどう増やせるか考える。 - 賞与戦略
決算賞与を使って給与総額をコントロールし、節税につなげる。 - 資金繰りシミュレーション
増えた人件費をカバーできる資金計画を組む。
まとめ
- 最低賃金の大幅引き上げは、中小企業にとって本当にきつい現実
- しかし、法律で定められている以上、対応は避けられない
- 賃上げ促進税制を使えば「増えた分の一部を税金で取り戻す」ことが可能
- 教育訓練費を戦略的に使えば「節税+人材強化」を両立できる
- 決算賞与を組み合わせれば「柔軟な調整」が可能
おわりに
賃上げは企業にとって経営を直撃する厳しいニュースです。
「やりたいからやる」のではなく、「やらざるを得ない」状況に直面しているのが今の経営者の姿だと思います。
だからこそ、使える制度は使い切る!
賃上げ促進税制、教育訓練費、決算賞与を上手に組み合わせれば、ただの負担ではなく「企業を強くする投資」に変えることができます。
ただし、賃上げ促進税制の適用には細かい要件があるため、実際の活用にあたっては専門家にご相談ください。
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