
2023年分の贈与税申告において、「相続時精算課税制度」を利用した人が急増したことが、国税庁の発表で分かりました。申告者数は7万8,000人にのぼり、前年に比べて約59.2%の増加と大きく伸びています。
この背景には、2024年からの制度改正があります。これまで相続時精算課税制度は、「使いづらい」「選んだら取り消せない」などの理由で、利用が伸び悩んでいました。しかし、今回の見直しによって、より多くの人が使いやすい制度へと変わりつつあります。
■「相続時精算課税制度」ってどんな制度?
まず、制度の基本を簡単におさらいしましょう。
「相続時精算課税制度」は、60歳以上の親や祖父母が、18歳以上の子や孫に財産を贈与する場合に使える特例です。合計で2,500万円までであれば、贈与時には贈与税がかからず、相続が起きた時にその金額を「相続財産」としてまとめて計算して、最終的に税金を精算する仕組みです。
これまでこの制度は、「贈与税がかからないのはありがたいけど、相続のときに一気に課税されてしまうのが不安」「一度使うと、もう普通の贈与(暦年課税)には戻れない」という声も多く、利用には慎重になる人がほとんどでした。
しかし、2024年からの改正では、新たに「年110万円の基礎控除」が追加されました。つまり、この制度を使っていても、年110万円までの贈与は申告不要となり、実質的に少額の贈与がこれまでより柔軟にできるようになったのです。
この改正により、「毎年少しずつ子どもや孫にお金を渡したい」「将来の相続対策を早めに始めたい」というニーズに応える制度として、一気に注目が集まりました。
■一方で「暦年課税」の利用は減少
反対に、従来型の「暦年課税制度」を使った人は前年より14.0%減少しました。
暦年課税は、毎年110万円までの贈与が非課税になる制度で、長年にわたって広く使われてきましたが、今後は相続と贈与を一体でとらえる「一体課税」の流れのなかで、相続前3年以内の贈与が相続税の加算対象になっていたところが、相続前7年以内の贈与がその対象となる改正がありました。
そのため、「今のうちに有利な制度を活用しておこう」という動きが相続時精算課税制度へのシフトを後押ししています。
■贈与税の納税額は過去最高に
こうした制度の変化や利用者の意識の高まりを受けて、2023年分の贈与税全体の申告納税額は3,935億円と、過去最高額を記録しました。
特に都市部では、不動産や株式など評価額の高い資産の贈与が活発になっており、「生前のうちに資産を渡しておきたい」という考え方が広がっていることがうかがえます。最近では、教育資金の援助や住宅取得のサポートなど、贈与の目的も多様化しており、若い世代への資金移転の重要性が高まっています。
■使いやすくなったけど「慎重な選択」が大切
制度が使いやすくなったとはいえ、「相続時精算課税制度」は一度選択すると、もとに戻すことはできません。また、相続が発生したときには、贈与された金額がすべて相続財産に加算され、他の相続人との間でトラブルになる可能性もあります。
例えば、不動産などの贈与を行った場合、贈与時と相続時で評価額が大きく変わると、想定外の課税が発生したり、相続人間での遺産分割に支障が出たりすることがあります。
そのため、この制度を活用する際は、「贈与する目的」や「相続時の全体像」をしっかり考えてから判断することが大切です。相続や贈与の知識に詳しい税理士など、専門家に相談するのも有効です。
■今後の贈与税制度の流れにも注目
今後は「相続・贈与の一体化」が進められる見通しです。国は、税の公平性を確保するために、所得や資産の再分配機能を強化したい考えを持っており、「生前贈与」による節税策が過度にならないよう、制度の見直しを継続していく方針です。
そのため、今後も贈与税制度は変化する可能性があります。自分や家族の状況に合わせて、制度の動きを注視し、適切なタイミングで資産移転を行うことが、これからの相続対策ではますます重要になってきます。
相続・贈与についてご不安がある方は、是非ご相談ください。